弟の人生

 兄の人生の物語−ロハスで父が死にました

 話題になっている文章の感想を書くのは、ちょっと怖いんだけれど書いてみる。身内にこういう障害を持つ人がいるわけではないので、何だそりゃと思われるかもしれないけれど。でも自分にも引っ掛かる部分があったので。

 この文章で私が印象に残ったのは以下の部分。

兄のことになると母の神経は過敏になった。その一方で私に対しては特に厳しいということも無かった。兄と比べれば私は大抵のことが上手くこなせたからだ。後に母は「二人目も同じだったら心中してたかもね」と冗談まじりに語った。

両親、特に母にしてみれば今まで問題のなかった私に裏切られた思いがしたらしい。私は毎日苛烈に面罵され、泣かれ、喚かれ、殴られ、遂には「お前は失敗作だ」と断言された。私は何も言い返すことができなかった。

母の怒りの矛先は期せずして私にも向いた。「お前もだ。いつまで家で寝てるんだ。大学に行かせるのにどれだけ金がかかったと思うんだ。寝てるだけなら金返せ」

 印象に残るというか、この部分にだけ私は「リアル」を感じて、ちょっとズキッとした。途中から「兄」の描写は、どうでもよくなってしまったくらい。それは私が「障害」というものをよく分かっていないからかもしれない。いや違和感はあったんだけれど。

 「兄」と「母」の描写が浮き上がれば浮き上がるほど、弟の存在がかすんでいくような感じ。どんどん「自分の存在」が分からなくなっていく。誰からも注目されず、誰からも認められない、そんな感じ。そして最後まで自分の気持ちを言えない。

 弟は母を憎まなかったんだろうか。自分に「失敗作」という言葉を浴びせる母に対して何も思わなかったんだろうか。ここら辺は、すごく無気力さを感じた。「憎んでいる」と言えないほど、力を失ってしまったんだろうかと思う。

 いや、やっぱり言えないかもしれない。今まで兄のことで必死だった母の大変さを分かっているからこそ、言えないのかもしれない。これからも母は兄のことしか見てくれないだろう。弟の人生はどうなっていくんだろうかと思う。

 正確さということで言えば、もっとも身近で「兄」と「母」を見てきたからこそ、弟から見た描写は正確でなければならなかったのかもしれないし、最後に弟にも一言、今までためこんできたことを言わせてやってほしかったなと思う。でも言えないんだろう。ずっと、そういう役割で生きてきた弟が何か言えるとすれば、それは何かきっかけがないと無理なのかもしれない。

 私の感想は、そんな感じです。すごく的外れかもしれないし、関係者の方には不快かもしれません。でも、もうちょっと弟のことを考えてほしかった。何となく。